負けるもんか!

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南響平、ある意味人生最大のピンチ。 負けるもんか! 俺には最近付き合い始めた彼女がいる。同じクラスでわりとおとなしい感じの子だったので告白されたときは驚いたけど、それなりに可愛いし俺もそろそろ彼女くらいほしいな、と思っていたところだったのでOKした。 そんなだから、もちろんまだ手も繋いでないし、部活があるから一緒に帰ったこともない。しているのは電話とLINEくらいだ。中学からの友人で、バカだけど恋愛に関しては俺よりも遥かに高い階級にいる石川にいわせると『そんなの男として間違ってる!』そうだが、そんな日常に俺は満足してる。少しずつお互いのことを知っていければいいじゃないか。世の中の男がみんなお前みたいに欲望に忠実に生きてるわけじゃないんだぞ。 今日もテスト前で部活を早めに切り上げたこと以外はいつもと何も変わらない。家のドアを開けたらいつもの風景が待っている、はずだった。 しかし、そこにいたのはそんな俺の平穏なはずの日常を脅かす女。 1ヶ月前に俺のファーストキスを奪った女、北川薫だ。 「あー響ちゃん、おかえりー」 「…なんで俺の部屋に普通にいるんだよ」 薫はベッドに寄りかかるようにして座り、どこから借りてきたのかDVDを見ていた。いくら家が隣りで家族ぐるみの付き合いだからって、俺がいない間に勝手に部屋に入ってくつろいでいいってことはないだろう。これじゃまるで俺と薫が付き合ってるみたいじゃないか。 「ママに頼まれたの、田舎からアスパラいっぱい送ってきたから響ちゃん家に持ってけって。キッチンに置いといたよ。ついでにいうと今日おばさん帰ってくるの遅くなるんだって、メモ置いてあった」 ふう、とわざと大きなため息をついてみても薫は全然気にも留めずにDVDに見入っている。薫は俺より2つ年上の高3で、今は俺が通う高校と逆の方向にある女子校に通っている。小さい頃からお互いの家を行き来していて、女姉妹がいない俺にとって薫は姉のような存在だった。そう、1ヶ月前までは。 昔から退屈を持て余すと薫は決まって俺をからかって遊んでいた。あのときだってそうだ。俺の部屋でマンガを読みながらいきなりキスしたことがあるかと聞いてきて、ないといったら次の瞬間唇にふわっと柔らかい感触の何かが触れた。それが薫の唇だってことを理解するのに数秒かかった。この日を境に、俺は急に薫を女として意識するようになってしまったんだ。そんな男心を知ってか知らずか、薫は何事もなかったかのように短パン姿で俺の部屋にやってくる。
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