〈序〉戦争を知らない母子

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 雪のちらつく寒い日。  潤子(じゅんこ)が昼食の後片付けをしていると、居間でもうすぐ10歳になる娘の千恵子(ちえこ)が、何か平たい物体を自分の片頬に当てながら、炬燵(こたつ)の中に潜り込んでいた。 「千恵子、何よそれ」  洗い物を終えて潤子がその物体に目をやると、それは簡易ポケットに入れられた1枚のDVDだった。 「屋根裏で見つけたの」  千恵子はDVDを頬から離して、潤子に渡した。  よく見ると、黄ばんだラベルが貼ってあった。ミミズが這いつくばった様な字で題名が書かれていたけれど、何て書いてあるのか潤子には読めなかった。 「とても冷たいでしょ。だから温めていたの」  無邪気に笑って千恵子が言う。DVDは千恵子の体温で片面にほのかに熱をもった。  一体何を撮ったものなんだろう。  潤子は右肩から前へ垂らしている後ろ髪を手でとかしてから、DVDをデッキに入れた。 「観るの?」 「うん」  リモコンの再生ボタンを押すと、ウイィンと鈍い音を立ててDVDが回り始める。  かなり長い時間黒い画面のままで、ジジジと雑音ばかりが流れるので、故障しているものだったのかと思った矢先、パッと映像が出てきた。  それはマンガのアニメーションだった。 …
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