〈序〉戦争を知らない母子

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「ああ、戦争の話なんだわ、物語によくある…」  潤子は画面の中の人物達の服装を見て、そう呟いた。  そして千恵子の方をちらっと見て、 「千恵子には恐いかもしれないわね」  と、くすくす笑いながら言った。  千恵子のような子供たちに限らず、潤子の世代でも戦争を知る者はいなかった。  かつてこの国で戦争の被害があったことを全く知らないでいた。  DVDの物語はタイトルが出ず、突然として話が始まった。 (叔母(おば)ちゃん、雨が降ってるぞ!)  画面の中の、雨の降る山奥の古い家屋から、元気のいい少年の声が響き渡る。  この戦争を知らない時代の母子は、炬燵で頬杖をつきながら、今から流れる戦争話を眺めようとしていた。  その時、 (西暦1944年…)  こんなナレーションが流れて、潤子はびくりとした。  これまでに読み聞きした戦争話に、これほどはっきりと年代が出てくるなんてことは一度もなかったからだ。  たちの悪い物語だ。ありもしないことを本当にあったかのように伝えるなんて。  潤子はその気持ちを一時的な感情としてさっと流したつもりだったが、曇り顔をどうにかすることまでには気が回らなかった。      〈1〉へ続く
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