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家を出てから10分程経ったか、ふとすると、雨しぶきの向こう側からパシャッ、パシャッと音が聞こえる。
耳のいい鷹は、その音を雨音と別に聞き分ける事ができた。足を止めて目を凝らすと、その音は益々耳に響きーーやがて小さな人影が見えた。
が、ドシャッという音と共にその小さな人影が更に小さくなったので、鷹はぎょっとして駆け寄った。
そこには、くすんだ青の防空ずきんを被り、小さな足に似合わない大きな草履を履いた子供が、うつ伏せになって倒れていた。
鷹は首で傘の柄を支えながらしゃがみこんで、その子の身体を起こしてやる。と同時に、紐が緩んでずきんがずり落ちた。
鷹は息を飲んだーーこの子は男の子で、恐ろしく黒い豊かな髪の持ち主。
この時代の男子たちは皆坊主頭が普通だった。この女の様に長い髪をした男の子を、鷹は思わず凝視した。
顔が泥だらけなのが気になって、鷹が自分のシャツの裾で拭いてやると、男の子はパチッと両目を開けた。
そして鷹の顔を見るなり、
「触るなっ…ボケ!!」
と、荒い呼吸で低く唸った。
…
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