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¨ナンデモ屋¨なんて看板を掛けて最近、店を始
めた。でも、ナンデモ屋と言っても何でもしますよではなく、なんでも手に入るよという意味だ。
そしてこんな店名だからか来るお客も様々で、帽子を深々とかぶって顔が見えないお客に、子供のようだけど角が生えているお客、急に跡形もなく消えるお客といった本当に様々なのだ。
"カラン、カラン"と店の扉が鳴り本日最初のお客が来たことを知らせてくれる。
今日は…布を深く被って、よく顔の見えない、下を向いた背の低いお客だ。いつものように
「本日は、どのようなご注文でしょうか。」
「…心が寒い、温もりを」
「心が寒い…ですか。」
繰り返すと、お客は静かに頷いた。
温もり…ここに来るということは、ただの温もりではないことはわかるのだが、どうするものか。少々、お待ちくださいねと奥の倉庫に向かって探す。この倉庫はとても不思議で、いつも昨日まではなかったものがなぜかあるのだ。
棚に並ぶ様々な箱を見ていく。これも違う、あれも違うとなかなか見つからない。
急に"ガタッ"と音を立てて、どこかの箱が落ちる音が聞こえた。そして、そちらを見ると心が暖かい気持ちになるような両手で持てる大きさの赤い箱が落ちていた。
今日はこの箱かと、思いながらお客の所へ持っていく。中身は必ず、お客が満足するものが入っているので、お客と一緒に見るようにするのが決まりだ。
そして、お客に開けるように指示をする
「どうぞ、箱をお開きください。」
「…これは、良い」
お客に箱を開けてもらい入っていたものは、赤いロウソクと青く色褪せた七宝模様が描かれたマッチの2つだった。
「…火をつけてくれまいか」
とお客がボソッと言って顔をあげた瞬間、お客の顔に少し驚いてしまった。布をとった顔が、石で出来た丸い燭台だったのだ。
なるほど、確かにこのお客にとっては火がなければ心も寒かろうし、そしてなんだかこのマッチとロウソクでないとふさわしくない気がする。
「…とても暖かい、こんな気持ちは久しぶりだ」
「ご希望に答えられて良かったです。」
「うむ、礼だ。」
と言われ受け取ったものは、玉虫色の綺麗な石でお客の方に目を戻した時には、もうお客の姿はそこに無かった。
とても不思議なお客だ。何処かの神様だったのかもしれない。この世のものではないほど綺麗なこの石がそのことを証明していた。
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