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「……おい蓮こっちだ早く来い!」
体育館に着くとほとんどの生徒が並び終えていた。そして後には多くのテレビカメラが並んでいた。俺は聖夜の言うがままに隣に座った。日向は遠いか……
「蓮けっこう遅かったみたいだけどなんかあったのか?」
「いや別に」
「今から吹奏楽部の演奏と共に新入生が入場します。皆さん大きな拍手をお願いします。では新入生入場!」
教頭が言い終えると同時に後ろの扉から新入生達が先頭の先生を筆頭に続々と入場していった。その中には久美の姿もあった。
俺は軽く久美に手を振ったが少しニコッとするだけだった。
新入生達が並び終えると校長からの有り難い式辞が始まった。ほんとこれだけは長いからパスしていいと思う。
二十分ほど経ったが未だに終わる気配すら見えない。しかもテレビが来ていると言うのに何人か寝ている生徒もいる。
特に俺の隣とか。
俺は周りに見えないようにそーっと携帯を手に取ると今日届いたメールを見返した。
しかし、あれからメールが来る事もなく、あれが唯一のメールになった。
「さらに! 我が暮遊高校は設立してこの23年間一度も遅刻した生徒がおりません!」
突如、校長の声に熱が入った。選挙の演説みたいに気合いが入ってやがる。
遅刻ゼロか……確かに前にもそんな事言ってたな。でも正直怪しい。本当に一人も遅刻した事ないのだろうか? ただ遅刻した事実を揉み消しているだけなんじゃ無いだろか。
そんな憶測が脳裏をよぎる。まぁこの高校の一番の売りみたいな事だからな、テレビの前だし言うに決まってるよな。
「遅刻ゼロの記録を持つのは全国でここだけなのです。ですから我が校は……」
“バンッ“
校長の話を遮るように体育館の扉が開かれた。一瞬にしてその場にいた全員の視線がその一点に集まった。
「あら。校長先生〜ごめんなさいね。朝シャワーを浴びていたのだけど中々髪が乾かなくて遅れてしまったは」
最悪のタイミングで最悪の女が登場してしまった。本当に何やってんだよ舞先輩……
さっきまで自信ありげに淡々と話していた校長の顔が南無阿弥陀仏でも唱えるているかのように"無"になった。
「あ、あの。ど、どなたでしょうか?」
おいおい校長、流石に自分の学校の制服着てる生徒にそれは無理があるだろ……
「あら? 校長先生もう私の事忘れてしまったんですか?」
いや一時的に記憶から存在を消しただけだろ。テレビの前であんな事言っといていきなり遅刻者が来たんだ消したくもなるよな。
「とりあえず……座ってください……。えー……これで式辞を終えます」
校長が諦めた。だから言わんこっちゃ無い、あの人が遅刻しない訳ないんだよ。流石にテレビの前じゃもう遅刻を揉み消せないし、何かもう流石クソ高だな……
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