4人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は5時限目が終わるまでずっとトイレの個室に籠っていた。チャットは、届いてもクリックしてファイルを開かなければ読めないようになっている。「今のチャット間違えて送信したから、読まずに削除して」なんて送ったら、絶対読むだろうから送らなかったが、そうじゃなくても今尾めぐみはたぶん、いや絶対、読んだだろう。
俺は本当に気分が悪くなりかけていたが、5時限目が終わると教室に戻った。今尾めぐみが、来た。俺は反射的に教科書で顔を隠した。
「早野君。チャット、読まないで削除したよ。どうせ誰かとチャットしてたんでしょ? 先生に見つかったら大変だもの」
俺は教科書の間からそろそろと顔を上げた。今尾めぐみは普段と変わらない様子だ。よかった、本当に読んでいなさそうだ。
「ああ、ゴメン…ありがとう。そうだよな、もうほどほどにするわ」
今尾めぐみは肩をすくめて俺の席から立ち去ろうとした。が、ふいに立ち止まり、背中を向けながら、言った。
「左利きの女は左利きの男にしか興味ないって、いったいどういう短絡思考なわけ?」
…読まれていた。俺は机に突っ伏し、死んだふりをした。
指が、俺の頭をつっついた。
見上げた先に、頬を染めてはにかんでいる今尾めぐみの顔があった。
俺は一瞬で右利きに戻った。
最初のコメントを投稿しよう!