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ダイニングテーブルに置いてある一枚の紙を見て小森紅葉、は茫然としながら呟いた。
「まじで?」
誰もいない、帰って来たばかりの家は酷く蒸し暑い。
テレビでは今期最高気温になると、朝からアナウンサーが騒いでいた。だが、今の紅葉は暑さなんてどうでも良かった。
背中に嫌な汗が流れる。
見間違いかと思い、もう一度、手に持っている紙に目を通す。
そこには、黒い文字ではっきりと書かれていた。
『海外出張が早まりました。イギリスと中国です。パパにそう伝えて下さい。帰りは一カ月後です。夏休みは勉強を忘れずに。ママより』
夏休み三日前の七月十五日水曜日。十八時十二分。
いつもの平日に、いつもの帰宅時間。
学校でも普通に授業を受けて、友達とおしゃべりしながら帰って来た。
当たり前の日常。
それが、家に帰ると状況は一変していた。
両親揃って仕事が大好きで、休日出勤や残業は当たり前。帰宅は日付が変わる前後がデフォルト。
いわゆる仕事中毒。家族より仕事が大事。好きな言葉は出世と名声。
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