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魔物の群れが、王都まで進行しているという報告を受けた国王は迎撃することを決めたのだろう。
最初の報告から七日目のことだ。
この時点で国王の采配の無さが伺い知れた。
「はぁ・・・。判断が遅すぎるだろ。」
もっと早くに手を打っていれば、このように王都の目の前までの進行を許すことなどなかったはずだと、丘の上から見ていた男は首を振って深くため息を吐く。
しかし、しっかりと念入りに協議したにしては人間側の勢力はあまりに簡素に見える。
王都の城壁の前には、各地方から集めた総勢“一万程”の歩兵と弓兵、騎馬隊しか居ないのだ。
対する魔王軍は、進行中も各地の魔物を吸収し巨大化。
進行開始時は同じく一万程の数だったが、王都を目の前にした現在では、三万をゆうに超える数へと膨れ上がっていた。
傍から見れば圧倒的不利な状況だが、王都側は更に強力な増員を用意していた。
その数は僅かに三人。
しかし、侮るなかれ。
この三人こそ王都を守護する人類最強クラスの知武を持つ者たちだ。
そんな化け物たちと怪物たちが揃い踏みになることなど、未だかつてない歴史的状況の中でも、男は呆れ眼で両軍が向き合う姿を丘の上から悠然と眺めていた。
まもなく両軍は激突し、どちらが勝鬨をあげるまで戦場は血に染まり続けるだろう。
「なんて不毛な争いだ。もったいないにも程がある。」
鎧の中で小さくため息を吐くと、眼下に見下ろす軍勢を眺めて首を振った。
この戦には両軍に多くの命が使われている。
その多くの兵が血を流しこの地で命を散らすことになるだろう。
その命の尊さを無視した争いに身を置く彼らの未来を憂い、男は『もったいない』と呟いたのだ。
零れた声に、隣に立っていた女の子がクスリと微笑む。
満月を思わせるほど美しく明るい髪と、雪のように美しい着物が丘に流れる風に靡いた。
「ほんと、優しいね。ユーちゃんってば。」
「優しくはないさ。今からやろうとすることを、思えばな。この光景を見て、率直な感想を述べただけだよ。」
漆黒の西洋甲冑を纏った男は肩を竦めて笑うと、自身の愛武器である弓を手に立ち上がる。
「ユウ様!全軍、出撃準備が整いました!」
二人の話が終わったことを確認した軍隊長の女の子が、胸に手を当て強い口調で告げる。
「そうか・・・。じゃあ、両軍がぶつかる前に決着をつけるとしようか。」
男は眼下に見下ろす両軍の中央に向けて、手を指し示す。
「この戦、我が軍が貰い受ける!勝利を我が手にもたらせ!」
「はっ!必ずや!全軍展開!弓兵、構え!」
男の号令を再度、軍隊長は繰り返す。
女の子とは思えぬ気迫を持って雄々しく発せられた声は全軍へと、速やかに伝達されていった。
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