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わたし、始めます。
きっと、愛されたかっただけなのだ。
振り返ってみるとわたしはいつも母のために生きようとしていた。
小さい頃、母は心を病んでいて家族で出かけたこともあんまりなかった。父はいたけど母とは不仲でよく言い争いをしていた。幼稚園の頃は母の母、つまりわたしにとっての祖母がお世話のために家によく来てくれていたけど、わたしが7歳の頃亡くなった。するとそのうちわたしが母の世話係になった。母がそれを望んだのか、母に笑いかけてほしいわたしが望んだのかは今となっては分からないけれど。
母は日によっておそろしく機嫌が変わる。いや、一日の中でだって何回も変わる。朝ニコニコしていたかと思えば、何かでスイッチが入ったのか、泣きながら怒鳴りつけてくる。何で怒られているかも分からないその最中も「なんか言え!」と回答を迫られる。必死に答えを探すけれど、何も見つからない。鬼気迫る母の顔を見ていると哀しくなってきてわたしからも涙があふれる。「泣けばなんとかなると思ってるのか!」畳み掛けるように母は怒鳴る。わたしはわたしにこんなにも怒りをぶつけてくる理由を必死に考える。
…分からない。分からないけど怒られたくない。母を怒らせないように生きなくては…。毎日、母の顔色を伺って生きてきた。
こんな風に生きてきたから母の元から離れる、なんてことは少しも考えたことはなかった。そもそも自分のやりたいことなんて考えたところで無駄だし、反対される以外の道はない。ならば初めから何も考えなければいいだけの話だ。
ある日のこと。
「あんたさ、お見合いしない?」
「は?何、急に」
「おばさんの知り合いの息子さんがね、精神科医なんだけど婚期をのがしたらしいのよ。だからあんたはどうかって」
「うーん。婚期を逃したって幾つの人か知らないし、そもそもわたしまだ22歳だけど」
「何歳でも良いじゃん。あんたが精神科医と結婚してくれたらわたしの病気だってタダで見てもらえるし」
「…しないよ。結婚なんて一生しない!!!」
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