ひとつの夏のおもひで

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俺の命は、あとわずか。 自分の終わりは、自分には分かるものなのだな。 良いパートナーに出会うために、この6年間耐え抜いてきた。 暗く辛い日々を乗り越え、ようやく青空の下で大きな声を出して、生きてる!って感じていたのに……せめて1度だけでも、イケてる女に出会いたかった。 「ジジ……ジジジ」 公園の木々の狭間、地面に仰向けに倒れた 1匹のセミの最期のひと声。 淡い思いを抱いた 男のセミ は息も絶え絶え、 女 を求めて鳴いた。 憐れ、誰にも届くことなく彼は地に還っていった…… セミの一生は意外にも長い。 地中で実に6年の歳月を過ごす。 そして、ここぞ!と言うとき地上に出てくるのだ。その後1週間で死ぬ……と思っているだろうか? 実はそうではない。最近の研究で、セミは地上にでてからおよそ1ヶ月生きるとわかってきた。まさにひと夏。 セミの思い いざ知らず、本能のまま生きるかの様に、夏を謳歌する浜辺の 男のヒト は今日も女をナンパする。 「ちょっと俺らと遊ばないー?」
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