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1.出来事
「……とすると、その泉が犯人ですか」
黒崎 颯巳。
ひとつ年下の後輩は、漆黒の髪と瞳を持つ美青年である。
「犯人、というか元凶? かどうかはわかんないけど……なんていうか、めちゃくちゃイヤなものの巣、みたいな」
「なるほど」
大学のサークルの一人が言い出した「夏合宿」。
なんのことはない、その子の親戚がやっている旅館に泊りがけで行って遊ぼうぜ、という企画だ。
川遊びにBBQ、花火にボードゲーム。
宿代を安くしてもらう代わりに、草むしりや大掃除の手伝いもした。
たくさん写真を撮ってネットに上げて、夏休みを漫喫していたはずだった。
人を襲う鹿や猪、凶暴化する野良猫や飼い犬、夜の記憶がすっぽり抜けている村人。
そんな奇妙な騒動さえ、なければ。
「ここの方々にはお世話になりましたし、僕は草むしりに参加しなかったので」
宿のテーブルの上に広げていたノートパソコンをぱたんと閉じて、彼は言った。
「埋め合わせとして、そちらの方を掃除しておきましょうか」
そうして二人、他のメンバーと出くわさないように気をつけながら、やってきたのは。
村から少し離れた、獣道のような細い道筋の脇にある小さな泉だった。
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