お鍋で

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「おたく、疲れとるね。鍋はいらんかね」 「は?」  毎日通りかかる金物屋のおばさんに話しかけられた。  何処をどうしたら疲れと鍋が繋がるのか。 「ぱぱー、なべなべー」 「なべなべー」  自転車の前後に乗る娘と息子がキャッキャッとはしゃいでいた。  妻が入院し、幼子二人を任せられた。  リモートワーク推進中で家にいるから余裕と思ったが、とんでもなかった。  食事は特に悲惨だった。  料理経験は皆無。コンビニ弁当一週間。ローテも尽きて子供達がムズがるようになっていた。  妻の退院はまだ先。今夜はどうしようか、と頭抱え保育園迎えの帰りだった。 「なべ」 「そう、鍋」  おばさんは、妻がいない事に気付いてた。 「オレ、料理なんて出来ないし」 「レトルトパウチを温めるだけでいいんだよ」 「レトルト⁈」 「そう。買ってきた弁当をそのまま出してないかね?」  その通りだ。 「皿にご飯をよそってかけてあげるだけで一品だよ。インスタントラーメンでもいい。料理と気張る事はないんだよ。新しい鍋で、どう?」  乗せられるままに鍋を買い、皿にご飯、温めたカレーをかけて出した時の子供達の顔は一生忘れないと思う。  スプーン持ったキラキラの目が湯気を見ていた。  父ちゃん。頑張らない料理、始めてみるよ。
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