ゲイの親友

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ゲイの親友

「私もう、こんなの嫌だよ」 夏樹沙羅(なつき さら)の口から飛び出した言葉に、俺は目を見開いた。 駅前のファーストフード店で15時ね、そう誘ってきたのは彼女だった。 俺、宮本淳(みやもと じゅん)と沙羅…夏樹は共に大学4年生、卒論と就活で忙しい俺たちの出会いは、中学校に遡る。 別の地区の小学校だった夏樹と俺はいわゆる「目立たないやつ」というやつであった。俺が先に入っていた科学部に、中学1年の秋、バスケ部をリタイアした夏樹が入ってきた。それが俺たちの出会いだった。 目立たないやつ同士気があった。好きな小説家や画家の話でよく盛り上がった記憶がある。科学部とは名ばかりで、俺は特別理科が好きなわけじゃなかったし、夏樹もそうだった。周囲は2人っきりの科学部としてからかったが、俺は動じなかった。それには理由がある。 「俺さ…ゲイなんだ」 卒業も間近となった3年生の冬、俺は夏樹にそうカミングアウトした。その頃は夏樹のことを「沙羅」と呼ぶくらい仲が良かったし、話しておかなければと思ったのだ。 「だから周りのからかいも別に気にしなかったし、沙羅を親友だと思えてる」 拒否られたらどうしようという気持ちはあった。しかし、夏樹はあっけらかんとして言った。 「へー!そうなんだ!いいじゃん、誰がどの人を好きになろうが関係ないよ。で、クラスに好きな男子とか居るの?」 ついでに私も親友だと思ってるよ!なんて付け足して。 俺はホッと安心して、クラスに気になる奴が居るとか、好きなタイプだとか、今までカミングアウトして受け入れられたことないだとか、他愛もないをした。 ほんの少しだけ、夏樹の顔が曇ったのを分からないまま。 その後同じ高校と大学に進学したのは、たまたまだろう。さすがに女子を名前で呼ぶのははばかれるかな、と思った俺は大学進学と同時に沙羅から夏樹へと呼び方を戻した。 そして、冒頭に戻る。 俺はハテナで頭がいっぱいになりながら、聞き返した。 「え、嫌だよって…何が? 俺、夏樹になんかした?」 「…したよ」 「えっ?いつ?」 「中3の冬」 ますます分からない。 中3の冬と言えば俺がゲイをカミングアウトしたくらいしかイベントはない。 納得がいかないので、更に話を詰めることにした。 「中3の冬って、俺がゲイってカミングアウトした時じゃん。それがどうしたんだよ…」 「それよ!!」 夏樹の、店内に響き渡る怒鳴り声に、俺はひっくり返りそうになりながら、周囲の人たちに謝り、続ける。 「それって…なんだよ、お前受け入れてくれたじゃん。今更拒否るとかなしだぜ?」 「じゃあ私もカミングアウトするわよ」 ぐすり、といつの間にか鼻と目を真っ赤にした夏樹。 「私はね…パンセクシャルなの。レズビアンだろうがゲイだろうがバイだろうがトランスジェンダーだろうが、好きになる人なの」 「へぇ、そうなんだ…で、え?俺がゲイなのとなんの関係が…」 「私は!あんたが好きなの!」 再び店内に響き渡る声で泣き叫んだ夏樹は、今までにない顔をしていた。 なんていうか…女の子の顔だ。 「中学の頃からずっと好きだった。本当は卒業の時に告白するつもりだった。でもその前にあんたがゲイって知って…私は構わないけど、あんたが私を好きになる確率0%じゃない…どうしてくれるのよこの気持ち…なんで…なんで…よ…」 最後の方はぐちゃぐちゃで聞き取りづらかったが、俺は謎の罪悪感に駆られた。 彼女を抱きしめる気が起きない俺は、きっと最低な人間だ。
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