56人が本棚に入れています
本棚に追加
そう言って、彼女はテーブルの上に視線を向けた。良一も彼女の視線を追って、テーブルの上の名刺に目を遣った。
トラブル社 浮気専門 倉田まゆみ
その名刺は良一が持ってきたものだ。良一の印刷会社に名刺作成の依頼が急遽入り、良一が担当した。名刺の内容が今の自分には見逃せないもので、縋る想いで、まゆみがいる事務所に来ていた。ただ、いまいちまゆみの仕事がどういうものなのか、わからなかった。
「倉田さんは探偵なんですか? 浮気の調査とか」
「それも仕事の一つですが、目的は浮気で傷ついた方の気持ちをサポートすることです」
「サポート……」
「町野さんが今、奥様に対してどういう気持ちなのか。どうしたいのか。その要望にお応えすることが、私の仕事です」
そう言われて、良一の胸には妻への怒りと憎しみで満たされていた。
「復讐したいです。俺と同じような気持ちを、妻にも味合わせてやりたいです!」
その言葉は力強く、負の感情が禍々しく感じられた。けれども、まゆみは動じることなく、ソファーを立ち上がると、事務所の机から紙を取り出して、それをテーブルの上に置いた。
最初のコメントを投稿しよう!