契約

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 そう言って、彼女はテーブルの上に視線を向けた。良一も彼女の視線を追って、テーブルの上の名刺に目を遣った。   トラブル社 浮気専門 倉田まゆみ  その名刺は良一が持ってきたものだ。良一の印刷会社に名刺作成の依頼が急遽入り、良一が担当した。名刺の内容が今の自分には見逃せないもので、(すが)る想いで、まゆみがいる事務所に来ていた。ただ、いまいちまゆみの仕事がどういうものなのか、わからなかった。 「倉田さんは探偵なんですか? 浮気の調査とか」 「それも仕事の一つですが、目的は浮気で傷ついた方の気持ちをサポートすることです」 「サポート……」 「町野さんが今、奥様に対してどういう気持ちなのか。どうしたいのか。その要望にお応えすることが、私の仕事です」  そう言われて、良一の胸には妻への怒りと憎しみで満たされていた。 「復讐したいです。俺と同じような気持ちを、妻にも味合わせてやりたいです!」  その言葉は力強く、負の感情が禍々(まがまが)しく感じられた。けれども、まゆみは動じることなく、ソファーを立ち上がると、事務所の机から紙を取り出して、それをテーブルの上に置いた。
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