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「町野さんの気持ちはよくわかりました。私もその気持ちにぜひ応えたいと思いますが、そのためには契約書にサインをしていただく必要があります。どうしますか?」
そこで良一は我に返った。そう。まゆみは何も同情だけで、自分の味方をしてくれるわけではない。これはビジネスなんだと、契約書を見て、思った。
金がかかるという現実が、良一を躊躇わせた。蓄えは少しはあるが、まとまった金を使うとなると、妻にも怪しまれてしまう。
それに、まゆみが一体何をするのかも、わからなかった。
「その、契約の前に、もう少し具体的な話を」
「あまり難しく考えないでください。町野さん。今、仰ったじゃないですか? 奥様にも同じ気持ちを味合わせてやりたいと」
「ええ」
「ですから、私と浮気をしてください」
まゆみの台詞がいまいち頭に入らず、良一から疑問の声が漏れた。
「……え?」
「私が役不足でしたら、他の職員に代わることもできますが――」
「いやいや、そう言うことじゃなくて! 僕が、まゆみさんと⁉」
「はい」
至極当然といったように、まゆみが頷くので、良一は自分の方がおかしいのかと錯覚してしまった。
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