失業

1/1
59人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ

失業

「廃墟の夏~少女幻想」 ◆失業  この夏、俺の人生で最悪の夏となった。  テレビでは、連日のように最高気温の更新を報道しているが、俺はそれどころではなかった。  俺の属していた会社は不動産会社だった。会社は五年前、畑違いのホテル業に手を伸ばした。ホテルの支配人から従業員まで素人集団だ。そんな事業が上手くいくはずもない。借入金は大きく膨らみ、すぐに従業員の給与も支払えなくなった。  俺は、そんなホテルの事業部長についていたのだ。当初は新ホテルの長として歓迎されたが、すぐに事態は変わった。  ホテルの最期には、その責任の全てを押しつけられた格好となり、挙句の果てに依願退職を迫られ、雑多な条件の元、俺は受けざるを得ない状況に追い込まれた。  物事は進みだすと、あっと言う間だ。気がつくと俺は無職という立場になっていた。  取りあえず金はある。四〇歳は目の前だが、家族を持っていなかったのは幸いだった。  俺は、しばらくは、職探しもせず、自由になった時間を謳歌すべく街を徘徊した。酒を飲んでは、また別の店で飲む。そんな無意味な繰り返しを楽しむことにした。  サラリーマンとなって20年。全ての体力と知力を会社に注ぎ込んできた。そこから解放されたのはいいが、俺はこれといってすることもなく、緩慢な日々を送っている。  これから、どうする?
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!