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訪れない夜に
学校は嫌いだ。
偽善者ぶってる委員長も内心では教師から点数稼ぐことしか考えていないし、クラスの中心の人気者も裏では弱者を虐めている。
微笑む担任だって教頭と不倫しているし、前の席の女子生徒の腕はファンデで隠しきれないほどリスカの跡だらけ。
それでも従順な生徒のふりをしていれば高校を卒業する程度の頭はある人間、という社会的信用が得られる。
本当に、学校は大嫌いだ。
「ね、次理科室だから一緒に移動しない?」
チャイムが鳴ってすぐに話しかけてきたのは、名前など忘れた女子生徒。
自分と同じレベルだと思われる人間とだけ仲良くして、そのレベルの中では自分はまだマシだと安心している部類の人間だ。
他人に危害を加えないだけ善良である。
「わかった、一緒にいこ」
そう返事をする。
私も学校では比較的従順な生徒なのだ。
にこにこ笑いながら廊下を歩き、他愛のない話をするだけの時間はその後の授業よりも退屈だった。
ああ、早く夜になればいいのに。
そうすれば昼よりは自由な時間が手に入るのに、と柄にもなく考えた。
「じゃあ、バイバイ」
「うん、さよなら──」
また別の女子生徒に話しかけられ、途中まで一緒に帰ったので大変だった。
ホームルームが終わって学校を出ても学校での顔を維持しなければいけないというのは、予想以上に心労がかかるものだ。
女子生徒と別れ、無表情になってからそんなことを考える。
それからまた少し歩き、家に着く。
そしてリュックから鍵を取り出す。
今の時間帯では誰もいないだろうから、のびのびでき──
「あんた、帰ってくんのが遅いじゃない!!」
「……お母さん」
「こっちはあんたが帰ってくんの楽しみにしてたのよ」
先客──母がいた。
これでは寛ぐなんて夢のまた夢だ。
普段は一週間に一度家に帰ってくるか来ないか、なのに。
ああ、嫌だ。
「……どうして、帰ってきたの?」
「決まってるじゃない、ほら、さっさと出しなさい。バイトかなんかして稼いでんでしょ? ちょうどパチンコで全部擦っちゃってねぇ」
「……家賃と、学費が」
「そんなのどうでもいいでしょ。ほら出せよ!カバン寄越せっ」
そのままリュックが漁られて、お金を盗られてしまった。
……家に隠しても口座に入れてもこいつに盗まれるから、ずっと肌身離さず持っていることにしたのに、わざわざ直接たかりに来るとは。
本当に、最低な母親だ。
「じゃあ、また来るから金用意しとけよ」
言い残して最低な女は去っていった。
ああ、家賃どうしよう。
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