管理人

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 翌朝──  テレビを垂れ流しながらカップ麺に湯を注いでいると聞き慣れた地名が聞こえてきたので思わず手を止めてテレビ画面を見た。 『今朝早く◯◯駅付近の駐輪場で男性の遺体が発見されました。発見された男性はこの駐輪場で働いていた男性◯◯さん、75歳と判明しており───』 「えっ!?」  ◯◯駅の駐輪場は私が毎日使ってるあの駐輪場だ。 「え、◯◯さんって、え? だって昨日は若い男の人が───」  自分の体から血の気が引くのを感じる。  私は慌てて財布を開けた。 「ひっ……!!」  あの男から受け取った千円札には血の指紋がベッタリと付着していた。駐輪場の街灯は薄暗くあの時は全く気づかなかったのだ。 『なお、犯人は現在も逃走中で警察が総動員で捜査をしており──』 「逃走中!? 捕まってないの!? け、警察に、警察に電話しなきゃ」  私は犯人の顔を知ってます。  指紋も持ってますって通報しなくちゃ──  私がスマホに手を伸ばした時だ。 “ピンポーン”  インターフォンが狭い1Kに鳴り響く。  背中にじわりと嫌な汗が滴った。 (まさか……いや、そんなはずは)  だが念のため息を殺し足音を立てないよう覗き穴に近づく。 「こんにちはー、◯◯署から参りました。◯◯駅の駐輪場で発生した事件でお伺いしたのですが──いらっしゃいますよねぇ?」  警察っぽい制服が見えた気もするが「あの男かも」と思うと長く覗き穴を見る事が出来なかった。 「山下紫織さーん、警察です。いらっしゃいますよねぇ?」  名前を呼ばれ一気に呼吸が荒くなる。  いくら警察官でも下の名前を知ってる訳がない。 (駐輪代を払った時に提出した身分証──) 「いますよねぇ? お話伺えますかぁ?」 “ドンドンドンッ”  この薄い扉の向こう側にいるのは警察官じゃない。昨日の駐輪場の管理人──いや、管理人じゃない……殺人犯だ。 “ドンドンドンッ”  拳で突き破れないとはわかっているが背中で必死に扉を抑える。 “ドンドンドンッ” 「ちっ……」  男の舌打ちが聞こえた。  様子を確認しようと覗き穴を覗くと血走る眼と目が合ってしまった。 「山下紫織さーん、また明日」
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