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君が泣いた
本棚の前にしゃがみ込み、うんしょと引っ張り出した途端、君は尻餅をついた。その表紙を君は長い間見つめた。そして愛おしそうに、どこか辛そうに小さな手で撫でた。
それは持っていくと決めたもの。けれど、いつかは処分する日が来るのではないかと予感させるもの。だから置いてゆくべきではないかと逡巡する。
その迷いの中で君は開いた。フローリングの床に女の子座りして、めくっては戻り、戻っては進みながら、飽くことなくふたりの写真を見た。もう増えることもなく、やがては色褪せ風化してゆく、とても短い物語を。
事故のあの日も、葬儀のときも君は泣かなかった。まるで泣くことさえ忘れたような君を誰も責めない。光ひとつ差さない漆黒の闇の中で、身体を丸め毎夜震えていたことを知っていたから。
思えば愛とも呼べないような、おもちゃみたいなふれあいだったけど、僕も君もそれなりに楽しく、そしてちょっぴり頑張った。
手紙、ありがとう。母が墓前に供えてから、僕が上京するまで使っていた机の引き出しにしまうだろう。
出会えてうれしかったよ。
小さな、聞き取れないほどの君の声がした。
「どうすればいい? ねぇこのアルバム、あたしどうすればいい?」
祈りを捧げるように腰を折り、アルバムに両手と額を預けた君が、全身を震わせて、初めて泣いた。
─fin─
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