8月30日

7/10
43人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 5人でロウソクを円く囲む。みんなしゃがんでひとりずつ、線香花火に火を点ける。 垂らした先端が揺れながら、丸くオレンジ色に膨らんでくる。そのうち糸を引くような強い光が現れて、中央からパチパチとはじけ飛ぶ。刹那の力強さが哀しい。勢いはすぐに弱まり、短い光の糸を数本まき散らすと丸い玉もろとも地面に沈んでいき、静かな暗い闇がそれを受け止めた。 私たちの、この関係ももうすぐ終わる。ここにいるみんながわかっていた。来年はそれぞれ別の道を歩いている。 私は足元を見ていたが、涙を堪えられなくなり、鼻がぐすっと鳴った。みんなが私を見たのがわかった。 「七海」 左隣の咲が私の肩に手をかけた。 「七海ちゃーん」 右隣の瞬が両手を広げて私を抱きしめようとしたが、それはポーズだとみんなわかっている。にこがぱこんと瞬の頭を叩いた。 「いてーなぁ」  悠星が立ち上がって話し出した。 「俺さ、大学で宇宙工学の研究しようと思ってる。で、北の方に行こうかなって」 「北? 東じゃないんだ」 咲が楽しげに訊く。悠星が王道をはみ出すなんて嬉しい、とばかりに。 「いい研究室があるらしいんだ。……七海は?」 悠星が真っ直ぐ私を見ている。 「七海はどうするんだ? 一番ふらふらしてる」 「私は……理系学部を目指すのは間違いないけど、具体的には考え中」 情けなかった。 みんな自分の進路を選択している。私はのっそり顔を上げて海を見た。もう辺りはすっかり暗くて、空と海の境界線はよく見えない。左の方を見ると、遠くの突堤の小さな工場の窓の光が、まるで漁火(いさりび)のように小さく閃いていた。 私以外のみんなは希望とともに光に導かれていく。私は独り、とりのこされた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!