炙り出し

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恐縮しきりのエルグは、籠を受け取ると、サリーナの手を取り歩き始めた。 突然の接触に心臓が口から出そうな思いをしながらも、サリーナは手を振り解くこともせず黙ってついて行った。 やがて庭園の中程にあるベンチまで来ると、エルグは彼女に座るように勧めた。 そして、その前に跪くと、まるで王女に忠誠を誓う騎士のように恭しく彼女の右手を捧げ持った。 突然のエルグの振舞いに、サリーナは声もなく動けなかった。 咲き乱れる薔薇の濃い香りが、風に舞って2人を包んでいる。 「この上空を飛んでいた時、あなたのことが目に入ったのです。」 エルグがぽつぽつと話し始めた。 「何て美しいひとなんだろうと…一目惚れでした。 何とかして話をしたい、仲良くなりたい、その一心で先日やっと勇気を出して声を掛けたのです。 サリーナ殿、あなたがラジェ様の侍従だと重々承知しています。 けれども、私はあなたをお慕いしています。どうしてもあなたを我がものにしたい。 ラジェ様に直談判する前に、あなたの気持ちをお聞かせいただきたいのです。」 真っ直ぐに見つめられて真剣に告白された。 サリーナは我が身に起こっていることが信じられなかったが、自分の右手を包むエルグの手の熱さと、耳に入る言葉に酔いしれて、思わず叫んでいた。 「エルグ様、私も…私もお慕いしておりますっ! どうか、どうか私をあなたの元に!」 「サリーナ殿!」 気が付くと、エルグの胸に強く抱きしめられ、濃い男の匂いに包まれていた。 あぁ…こんな幸せなことが起こるなんて… どうか、どうか夢なら覚めないで。 でも… 父上、復讐を果たせない愚かな娘をどうかお許し下さい… 私は目の前に差し出された、この温もりを手放せない… あの皇太子の側にいながら、綺麗な身体であることに今は感謝します。 胸に込み上げる様々な思いを抱えたサリーナは、エルグに抱かれたまま、静かに涙を流し続けた。
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