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その日のうちに、エルグがラジェの配下になったという噂(それは事実だった)が、城内を駆け巡った。
それはイコール、エルグが現国王ルースを見限った、ということ。
「いよいよルース様もお命がないとみえる」
「我らもラジェ様の方についた方がよいのでは」
「しかしよい噂を聞かぬ」
「あんな愚弟でこの龍の国は大丈夫なのか?」
「滅多なことを言うな、首が飛ぶぞ」
「あの裏切り者め。女にうつつを抜かして…」
「ラジェ様の侍従が一新するらしいぞ」
「エルグは侍従全てを我がものにしたそうだ」
「戴冠式はいつだ!?」
様々な憶測と噂が、城内外に渦巻いていた。
その嵐の中にあって、エルグは全く冷静だった。
さぁグルディ、お前はどう動く?
俺に接触してくるか?それとも…
自分の思い描いた通りに物事が進み過ぎて、怖いくらいだった。
それに…そのためにサリーナを利用したことが、小さなしこりになっていた。
「…エルグ様…」
サリーナが遠慮がちに声を掛けてきた。
「あぁ、サリーナ。荷解きは済んだのですか?
落ち着いたらで良いので、あの侍従達は今後どうしたいのかを聞いていただけませんか?」
「私だけでなくあの子達まで…本当にありがとうございました。
何とお礼を申し上げてよいのやら…
親元に帰りたい子、何処かで働きたい子…みんなの希望を聞いておりますので、後程お聞き届け下さいませ。」
「承知しました。
ご家族に挨拶もせず、勝手に連れて来てしまったこと、どうかお許し下さい。
けれど、そうしなければならなかった。
心が通い合った今、ひと時でも離れることはできなかったのです。」
「でも、エルグ様。
そのせいであなたはルース様を裏切るような」
「何を言われても構いません。
私にとってはあなたの方が大切なのです。
きっとお分かりいただけるはず。
そんな顔をしないで、美しいひと。」
その言葉にサリーナは頬を染め、あの地獄のような日々から救い出してくれた愛おしい男を敬慕の眼差しで見つめていた。
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