SS.結婚祝い

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ちゅ、とリップ音を立てて、ルースから少し離れると 「でもね、一つ考えてることがあるんだけど。」 「うん、何だ?」 「あのね、イスナに病院が欲しい。」 「イスナに?病院?」 「そう。 赤死病が流行った時に思ってたんだ。 イスナには病院がない。だから罹りたくても叶わなくて。 キリヤもそうだったけど、古傷の痛みを堪えたり、熱が出たり具合が悪くても我慢してるひと達が沢山いた。 彼らが、病院がある街まで出てくるには随分と距離がある。 友好関係が結ばれたとは言っても、イスナに対する偏見はまだまだ根強いと聞いてる。 だから、何かあってもすぐに診てもらえて、緊急時には街の病院と連携が取れるように、病院が欲しい。 でも…お医者さんがいないんだよ。 イスナには専門の学校もないし、龍の国で受け入れてもらえる状況ではなかったし、医者を目指すひと達は隣のそのまた隣の国まで行ってるって聞いた。 そのひと達が資格を取って経験を積んでイスナに戻るには、まだまだ時間がかかるって。 俺が欲しいものはね…イスナに病院とお医者さん…」 「霙、お前って…」 ルースが覆い被さって、俺をぎゅっ、と抱きしめてきた。 「…本当に、国のことを…龍の民のことを1番に考えてくれてるんだな… キリヤが聞いたら泣いて喜ぶぞ。 アイツはただでさえ、俺を無視して直接霙にコンタクトを取ったり、ちょっかいを掛けて楽しんでいる風なのに。 そんなこと言えば、ますます霙のことを好きになってしまうじゃないか。それは困る。」 見当違いのことを言い出したルースに、くるんと身体を捻って向き合い、首に両手を回して抱きつくとドヤ顔で宣言した。 「だって俺はルースの伴侶で、この国のお妃だもん。 だから、俺にとって龍の国のひとびとは、ルースと俺の子供も同じ、だろ? 大体さ、俺が心から愛してるのは誰だと思ってんの? 世界中でたった1人の…ん?ルース?どうしたの?」
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