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霙の髪を撫でながら、ルースがひとり言のように呟く。
「…まさかそこまで手を回していたとは…ドリナ先生すら謀るとは。
あれだけ愛情をかけられても、それを素直に受け止め、そして返し分け与えることはできなかったのだな…
欲というのは、何と罪深いのか。
幾らそそのかされたとはいえ、どんな理由があろうとも、この龍の国で他者の命を殺めるのはご法度。禁忌中の禁忌だ。恩赦等は発令されない。
だからどんな犯罪者でも生きたまま北の塔に送り、天寿を全うさせる。
…俺達を狙ったあの男、アイツもグルディに運命を狂わされた一人だ。
狙撃の腕に目をつけられて犯罪者に仕立て上げられ、家族の生活を守る対価として、本当に罪を犯してしまった。
母親の顔を見た途端に、観念して全てを白状したそうだ。
今は大人しく自分の犯した罪を悔いているらしい。
俺はこの国を大切な者達を守らねばならない。
美しいこの国を次の世代に繋げねばならない。
霙、お前には今回のように命を狙われたり、様々な苦労や心配をかけると思う。
それでも……俺の側で笑ってついてきてくれるか?
それとも、もう恐ろしくて…元の世界に帰りたいか?」
ルースの瞳に哀しみが宿っていた。
俺を失うことを恐れているのか?
ルースの頬にそっと手を当てた。
「長い時をかけて俺を迎え入れる準備をして、無理矢理召喚しといて、今更放り出すつもりか?
俺の生きる場所は、ルースの側。
何処にも行かないよ。
一生、離れないで俺を愛してくれるんだろ?
そう言ったのは嘘だったのか?
信じたのは俺の独りよがり?」
「霙っ、違うっ!
何があっても離したくない、愛してるんだ!」
「じゃあ、そんなこと二度と言うなよ!
『何があっても俺の側にいろ』
そう言えばいいじゃないかっ!」
俺はルースの胸ぐらを掴み、視線を合わせた。
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