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エルグは固まっていた。
父は何を言い出すのか?
よりによって、あの愚弟に仕えろと!?
ルース様や霙様が、アイツらのせいであんな目に遭っているというのに、一体何を考えているのか!
「…お言葉ですが……正気の沙汰とは思えません…私は」
「エルグ、私は『罠を仕掛ける』と言ったはずだが?
我が国軍筆頭の大将のお前が、国王を裏切ってラジェ様側につく、ということはどういうことになるか分かるか?
奴らは必ず油断する。
そうすれば絶対に綻びが生まれる。
狙いは、そこだ。
ラジェ様はハッキリ言って聡くない。お前という味方がつけば、益々増上慢に陥って簡単に尻尾を出してくるはず。
いくらグルディの配下の者が目を光らせていても、止めることはできない。
エルグ、くれぐれも用心してくれ。
グルディはひとの命を奪うことに何ら躊躇いはしない。」
「二重スパイ、という訳ですね……面白い。
喜んでその役目、引き受けます。
グリスには伝えてもいいですか?
あいつにも協力してもらわねば。」
「そのつもりだ。
そのうちに『陸空軍隊長の兄弟が国王をそして親を裏切った』なんてセンセーショナルな号外が飛び交いそうだな。
そうと決まれば…ルース様と霙様に書面を。
お二人にもご協力を願わねばならん。
エルグ、ここに来るのも暫く控えて…繋ぎは…」
「フォルダはどうでしょう。
あいつは俺が信頼する部隊長のひとりです。
地上専門だが飛行能力はかなりのもの。
何より口が固い。」
「フォルダか。そうだな、適任だろう。
敵を欺くには味方から。
エルグ、心してかかれよ。」
「ラジャー。
ガルーダ様、お元気で。」
「エルグ…」
ガルーダはそっとエルグを抱き寄せた。
もしかしたら、今生の別れになるかもしれない。
そう思うと、抱きしめる腕に力がこもる。
口に出せない思いを秘めて、2人は別れを噛み締めていた。
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