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ラジェには身の回りの世話をする良家の出の女達が数人いる。
彼女達はラジェの公私を知る数少ない者達であり、緘口令が敷かれており何があってもラジェの様子が外に漏れることはなかった……今までは。
『自分が王位についたら、もっと若くて見目麗しい女を側に置く』
公然と暴言を吐き始めたラジェは、彼女達に対する処遇もぞんざいになり、ラジェへの不平不満は彼女達にとって耐え難いものになっていた。
そしてその悪評は、鉄壁の戒厳令を潜り抜けいつの間にか外へと流れ、城下の末端の者達にも知るところとなっていた。
噂は噂を呼ぶ。
それを知ったグルディは、ラジェの扱いを思案していた。
ひとりの女が庭園で薔薇を摘み取っていた。
ラジェの世話役だ。
結婚適齢期を少し過ぎたとはいえ、目鼻立ちの整った美人系である。
本人も自分の容姿を自覚しているらしくラジェのお手つきを待っていた風だが、彼の好みではなかったようで、年月が経った今ではラジェ付きの侍従頭となっていた。
エルグはさり気なく近付くと声を掛けた。
「こんにちは。いいお天気ですね。
綺麗な薔薇だ。
部屋に飾りたいので俺にも数本分けていただけませんか?」
女は、今をときめく空軍隊長に突然話し掛けられ、驚きを隠せない様子で頬を染めて答えた。
「こんにちは、エルグ様。
勿論ですわ。
蕾がよろしいかしら、それともこちらの開きかけた方が…」
「そうですね…あなたの見立てでお願いできますか?」
滅多に至近距離で会うことのない美丈夫に微笑まれて、女はすっかり舞い上がっていた。
(どうしてエルグ様がここに!?何て紳士なの!
それにしても整ったお顔立ち…それにいい匂いがする…香水?それとも…発情期の雄の匂い?
嫌だ…私ったら何てはしたないことを…)
震える手に必死で力を込め、とりわけ美しい薔薇を5本摘んだ。
そして棘を綺麗に切り落とすとエルグに渡した。
「あっ」
手渡した時に、エルグの指に触れてしまった。
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