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「お母さーん、海行きたい!」
五才になる娘がテレビで海を見てからというものの一週間ずっと海に行きたいと言い続けている。
「ねぇ~うみぃ~」
それをのらりくらりと一週間、誤魔化してきた。
「サメさんに食べられちゃうよ~」
「あんなの嘘だよ!」
有名サメ映画を見せてみたが娘に効果は無かった。
「お母さん肌弱いからさぁ、あんまり海行きたくないなぁ~」
「やだやだ行きたい!」
娘は私の足元で必死に海に連れて行けと懇願の舞いをしている。
「ただいまぁって何騒いでるんだ?」
「雫が海に行きたいって──」
「なに、望美は行きたくないんだ?」
「いやぁ、だってさぁ……」
「水玉模様がトラウマ?」
「いやぁぁ。思い出させないで!」
「あっははは! よ~し、雫ぅ、来週の土曜日に海に連れてってやる」
「本当に!? やったぁ」
雫はパパが海に連れてってくれると言ってくれたので大はしゃぎだ。
「うーみ、うーみ」
「海! 広いぞー」
「うみぃ!」
私はじとっした目で雫を抱き抱えるパパを睨み付けた。
「私、水着持ってないよ……」
「買いに行く?」
雫を床に下ろしてネクタイを緩めながらニヤニヤ笑う彼。幾つになっても悪戯っぽく片方の口角を上げる笑い方は変わらない。
「俺が選ぼうか?」
「……いい。自分で選ぶ」
「え~選ばせてよぉ」
「やだ! また水玉模様に日焼けしたくないもん! 肌弱いから一回焼けると二年は消えないんだから! 知ってるでしょ!?」
「水玉模様の肌も可愛かったけどなぁ」
崇くんは他人事だから笑えるのだ。
二年近く水玉の肌で過ごした私は恥ずかしくて温泉にも入れなかった。
「崇くんが水玉模様の水着着てよ」
「え、絶対やだ」
私のひと夏の思い出はこの先もずっと変わらない、白と黒の水玉模様。
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