籠の鳥は臥して月待つ

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籠の鳥は臥して月待つ

玄関のインターフォンが鳴っても、裸の雲雀(ひばり)はベッドの中で待っていた。特注のベッドはクイーンサイズで、置かれた寝室はそれでもまだまだ余裕のある空間だ。 しばらくの後、部屋に入って来た顔を確認するなり、にやりと笑みを見せる。 「ホントに来たんだ。」 笑みをたたえ、三日月形に曲がった目元。その中でやや不似合いな青い瞳は、カラーコンタクトレンズではなくレーザー手術によって生み出されたものだった。最近ようやく馴染んできた、否、見慣れたと言った方が正しいのかも知れない。そこから向けられる視線は喜びと共に熱を帯びており、皮肉なほどに妖艶だった。 「ヒデは相変わらずだねー。」 感心感心、と言いながら読んでいた成人向け雑誌を閉じ、サイドテーブルへ置く。 ヒデと呼ばれた青年はそんな雲雀の目的にようやく気付いたようで、不服そうに顔を顰め、頭を掻いた。 「セックスしたくて呼び付けたのか?」 あからさまに苛立ちを見せる態度には、昔から振り回されがちな仲での積もり積もったあれやそれが早くも滲み出ている。 上月(こうづき) 日出人(ひでひと)は、この雲雀という少年に対し、その名の通り月と日、すなわち陰と陽が交錯するような、一筋縄ではいかない感情を抱いていた。 当の雲雀は悪びれる素振りも見せず、肩を竦め、片方の眉を跳ね上げる。 「そーじゃなくても、こんな時間に来てくれんのヒデくらいじゃん。」 紛れもない事実を言われ、今度は呆れて溜息をつく。幾度となく訪れた手前、時計の位置なら把握しているが、わざわざ確認する気にもならない。 雲雀は満足そうに笑い、そんな呆れとも諦めとも取れる表情を見上げたまま、自身の隣をポンポンと左手で叩く。
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