籠の鳥は臥して月待つ

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「ヒデが誰かと結婚したら…子供が出来たら…その時は…」 三日月形ではなく柔らかな笑みを湛えて話すその目に、じわじわと涙が溢れ始める。声も震え、濁って、聞き取りづらくなる。 どんな形であれこの先も、一緒になる事はできないのだ。ずっと昔から、心を捧げてきたと言うのに。 結婚や子育てに理想を抱けない理由は、その生い立ちと、多くが既婚である男性客に春をひさぐ日々が何よりも物語る。 「それまでボクが生きていられるかも分からないけど、でも、ヒデが好きになる人を見てみたい…」 日出人がすぐに立ち上がり、ベッドに歩み寄る。腕を伸ばし、泣き始めてしまった雲雀の頭を撫でてやった。 「なに泣いてんだ。死ぬ時は一緒だろ?」 「だって…」 病気がちだった雲雀が、外の世界を教えてくれる日出人に対して憧れを抱いたのも無理はなかった。 ちょうど東に向いた場所にある窓から、まるで太陽を背負って現れたかのように、温かく、明るく、自分を照らしてくれる。日の出る場所から現れる人。それが、当時の雲雀にとっての日出人だったのだ。 「ホントに好きなんだもん…ヒデのこと…」 髪を金色に染められようと、目の色を変えられようと、全身に卑猥で歪曲した証を刻もうと、鼻の頭を真っ赤にして泣く癖は昔から変わらない。 日出人はやはり何も答えず、姿勢を下げてキスを落とした。
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