籠の鳥は臥して月待つ

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横たわった雲雀が細い腕を伸ばしてくる。 「今日は…会えて良かった。」 日出人は屈んだ体勢のまま、その小さな体をしっかりと抱き締める。まだ薄暗い部屋で交わされるそれは、別れの挨拶だった。 体を離すと、日出人は裸の雲雀に掛け布団を引き上げてやった。軽く、柔らかで温かい、上質な羽毛布団だ。 「これからしばらく、夜まで予約埋まってるんだ。そのうち検査もあるから、また入院しなきゃ…」 二人が次に会うのはいつになるか、それは誰にも分からない。いつ、会えなくなるかも分からない。 そんな不安は誰の胸にでもあるが、特に強いのは実のところ日出人の方だったかも知れない。 「オレも。当分は夜まで現場だ。」 同調すると、雲雀が少し悪戯っぽく笑ってみせる。 「寝なくて平気だった?」 「今日ここに来なきゃ寝てたさ。」 鳥頭が相手では、嫌味にもならない。二人が望んだ事であれば尚更だ。 「帰ってから、少し寝る。」 睡眠不足も、激しい運動による疲労も、高所での作業には当然ながら影響を及ぼす。はばたく事をほとんどしないトビは、空を滑るように落ちるだけだ。
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