籠の鳥は臥して月待つ

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日出人が住み込みで暮らす寮は、このマンションから車で1時間ほどの場所にある。この寝室ほどの広さも防音性も断熱性も持たない、日当たりの悪い一人部屋に暮らしている。 人の目に付かない場所に巣を作るのはトビの生態だ。 現場に顔を出す事などない建設会社の社長もまた、その末端が汗水を垂らして上げた利益で高級男娼を買う「パパ」であった事は、つい先日知った偶然だったが。 そこはほとんど寝るためだけに帰る場所。雲雀と抱き合う大きく柔らかなベッドに比べれば、畳の上に敷きっぱなしの布団の寝心地など語るまでもない。 次の連絡がくる夜は、いつになるか分からない。 薄い布団に()した籠の鳥もまた、月が上るのを待つのだ。 雲雀はひとつ頷き、羽毛布団を首元まで引き上げる。 「シャワー浴びてる間に、下にクルマ呼んどいてあげる。」 業務的とも取れる態度の裏に、名残惜しさを覗かせるところまでが商売というものだ。 浴室を出た日出人は、血と体液で汚れたシーツと枕カバーを廊下へ出し、エレベーターへ向かう。 裏口から出ると、待っていたタクシーに乗り込んだ。 日が上り始めた空には、まだ沈み切らない月が浮かんでいた。
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