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「さて、じゃあ」
並木くんはコンビニで買ったスポーツドリンクを勢いよく飲むと「やりますか」とバケツを持って川へと走った。
彼が川から水を汲んで戻ってくる間に、私は花火の袋に入っていた蝋燭を少し掘った砂利に埋めて固定する。
「並木くん、マッチとかある?」
「ライター持ってきた」
彼はジーパンのポケットから使い捨てライターを取り出すと、蝋燭に火をつける。しかし何度か風に吹かれて消えて、落ちていた木の板で風除けを作ってやっと燃え出した。
「ほら、一本目いけよ」
「え、いいの」
「レディーファーストってやつだ」
「なにそれ。でも、じゃあお言葉に甘えて」
私は手元だけ細くなっている手持ち花火の先を蝋燭に近付ける。
「……あれ?」
「ん、なに?」
「火、ついてるこれ」
「ついてるんじゃね? 当たってるように見えるけど」
「全然火つきそうな感じしないけどぎゃあああ!」
さっきまで焦げ付いていただけだった花火の先から急に勢いよく火花が飛び出して、私は思わず叫んでしまった。
「おおお、落ち着け!」
「び、びっくりした……!」
どくどく、と鼓動する心臓が収まらない。花火ってこんなに勢いすごかったっけ。
私が花火を睨みつけていると「……あはは」と隣で笑い声が聞こえた。
見れば、彼が身体をくの字に曲げて震えながら笑っていた。
「ぎゃあああ、だってさ。あっはは」
「ちょ、だって、びっくりしたから」
「いやーこれ一生忘れねえな」
「やだ、明日には忘れてよ」
二人だけの河原に彼の笑い声が響く。
一生忘れない、にときめいたことは怒ったふりで誤魔化した。
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