1/2
56人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

 高校二年生の夏とは特別な意味があるらしい。  曰く、青春の代名詞。  曰く、最後の夏の思い出。  曰く、大人になってもふと思い出す大切な時間。  つまり、この夏は一生ものということだ。   「というわけで、この先2ヶ月の予定を立てよう」 「いつの話をしてるんだ」 「だってもう7月半ばだよ? 夏なんてあっという間に過ぎちゃうんだから」 「ほんと波戸(はと)は計画的だな」 「並木(なみき)くんが無計画すぎるんだよ」  隣の席で溶けかけている並木くんに私は言った。  暑さに弱い彼は、昼休憩も冷房の効いた教室でだらけている。 「今日は外遊びに行かないの?」 「暑すぎてやめた。俺は冬生まれなんだ」 「それ関係ある?」 「ブラジルはサッカーが強い、と同じくらいには」  並木くんは適当なことを言いながら、その切れ長の目を瞑るように「あはは」と笑う。  彼の能天気な笑顔を見ているだけで、なんだかもう全部どうでも良くなりそうになって、私は自分の浮かれた気持ちに気付く。 「とりあえず今週末の予定から立てなきゃ」 「今週末って明日じゃねえか。まだ決まってなかったのかよ」 「まあね。たまたま空いてるの」    本当は、あえて空けといたんだけど。  彼はきっと「来週遊ぼう」なんて約束しても忘れてるだろうから。  それに急な予定なら、他の人を誘う可能性も少ないし。 「並木くんは明日何かあるの?」 「まあな。クーラーと扇風機の効いた部屋でラムネ飲みながらゲームするって大事な用事がある」 「それヒマって言うんだよ?」  これまでの会話からある程度分かっていたが、明日も彼の予定がないことも確認できた。あとは勇気だけ。  私は小さく息を吸う。  ……だって、この夏は一生ものなんでしょ? それなら全部とっておきの思い出で埋めたいじゃない。  高校二年生の夏。その大切な思い出として。  私は、並木くんと一緒に花火がしたいのだ。 「……並木くんさ」 「ん、どうした」  私はできるだけ何気ない風を装いながら、渾身の勇気を振り絞った。   「花火って知ってる?」 「馬鹿にしてるのか?」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!