2/2
56人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「あ、間違えた。線香花火って知ってる?」 「何を間違えたんだよ。線香花火くらい知ってるよ」 「え、嘘でしょ……?」 「やっぱ馬鹿にしてんじゃん」  眉間に皺を寄せた彼に、私は言う。 「じゃあ、線香花火は光り方によって名前が違うのも知ってる?」 「名前?」 「線香花火ってどんどん光り方が変わっていくでしょ? その一つ一つに花の名前が付いてるの」  燃え始めの小さな火球を「(つぼみ)」。  火球が膨らみ、火花が飛び散り始めた状態を「牡丹(ぼたん)」。  さらに火花が増え、四方八方に飛び散る状態を「松葉(まつば)」。  火花が細い線となり、勢いが衰え枝垂れる状態を「(やなぎ)」。  火球が小さくなり、燃え尽きる直前を「()(ぎく)」。  火がついてから燃え尽きるまでに、線香花火は5回光り方を変える。 「この光り方は人生にも例えられるんだよ」 「マジかよ。奥が深いな」 「知らなかったでしょ」 「知らなかった……。てか、線香花火って5種類も光ってたか?」  並木くんは自分の顎に手を当てて首を捻る。  私はその言葉を、待ってた。 「じゃあ見てみない?」  私は何気ない風を装って言う。 「明日、空いてるけど」    並木くんは顎に手を当てたまま、こちらを見る。  そうして少し考えた後。 「……まあ、確かにゲームは昼だけでいいし」 「うん。昼は暑いから、夜の涼しくなってきた頃に集まろ」 「なるほど……ありだな」 「決まりね」  それから私たちは簡単に集合時間と場所を決めた。  そして昼休憩終了のチャイムを聞いて、教室の掃除を始めるために立ち上がる。  机を運んでいる瞬間も、床を箒で掃いている瞬間も。  私はにやけそうになる口元を隠すのに必死だった。  かくして、計画通りに彼を花火に誘うことに成功したのだった。やったぜ。  
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!