牡丹

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牡丹

「花火ってのはな、あればあるだけいいんだ」 「自分が何を言ってるかわかってるの」 「わかってるさ。知ってるか、花火の量は思い出の濃度と比例するんだぜ」 「でも財布の中身と反比例するんだよ?」  私たちは近くのコンビニに集まり、飲み物と花火の調達をした。私は麦茶、並木くんはスポーツドリンクを買った。それと、大量の花火。 「ほんとに全部買うとは」 「店員も焦ってたな」 「私ほどではないと思うけど」  並木くんが無計画にも棚にある全ての花火を購入したため、私たちは両手に大きなビニール袋をぶら下げながら歩く。並木くんはさらに青いバケツも持っている。  日が落ちても朧げな熱を纏う夜を歩いて、額に汗が浮かんできた頃、河原に着いた。 「お、やっぱ川は少し涼しいな。川最高」 「ほんとだ。風が冷たくて気持ちいい。川最高」  丸みがかった砂利の上を歩くと、ごつごつとした感触をサンダルの薄いソール越しに感じる。 「あと花火全部買い占めたのには、もう一つ理由があってさ」 「え、なに?」 「ほら、周り見てみろよ。誰もいねえだろ」  私は辺りを見渡す。  彼の言う通り、私たち以外には誰もいなかった。 「あそこのコンビニの花火買い占めときゃ、もう他のやつらはここに来ねえはずだ。花火無いからな」 「ええ、無茶苦茶だなあ」 「この河原は俺たちのものだ! はっはっは!」  両手を広げて魔王のように笑う並木くんは少し間抜けだし、花火なんて事前から用意しておけばいいじゃないかと思ったりもしたけれど。  少なくとも今、この一帯が私たちだけのものだと思うと、心が弾んだ。
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