松葉

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「よし、じゃあいくぞ」 「うん」  私たちは蝋燭の火にゆっくりと線香花火を近付ける。  少し待つと、丸くなった小さな火が先端にくっついた。  並木くんは「これが『蕾』」と呟く。  徐々に橙の火球は大きくなっていき、中身が漏れ出るように火花が散り始める。  私は「これが『牡丹』」と言った。    火花は勢いを増し、細く枝分かれした光を纏うように燃える。  ぱちぱちと振動を親指と人差し指に感じながら、私は「これが『松葉』」と彼を見る。  舞う火花は徐々にその枝を収め、一本の線を靡かせる。  彼は「これが『柳』」と私を見る。  火花が散らなくなり、火球はゆっくりとその光を収めていく。  私たちは目を合わせる。 「「これが『散り菊』」」  重なった声と消えた光。  数瞬の間だけ見つめ合って、私たちはどちらからともなく笑い出す。 「ほんとに5種類あるんだなあ」 「だから言ったでしょ」  私が得意げにそう言うと、それに対抗するように「じゃあさ」と彼は線香花火を一本渡しながら言った。 「知ってるか? 線香花火って繋がるんだぜ」 「繋がるって?」 「ほらこうやって近付けたらさ」  そう言って彼は自分の線香花火に火をつけて、まだ火のついていない私の線香花火に近付ける。  それをじっと見ていると、彼の火が徐々に私の花火に移って、大きな一つの火の玉となった。 「ほらね」  得意げに彼は言う。  しかしその火球はすぐに地面に落ちた。 「あ、落ちた」 「もっと精進が必要みたいだな」  彼はそう言って目を瞑るように笑った。
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