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「ありがとね」
「え、なにが」
「いい思い出ができたから」
「……いや、俺が線香花火したかっただけだし」
私たちの線香花火がぱちぱちと火花を散らす。淡い光が彼の顔を照らしている。
目を逸らして笑う彼から、私は目が離せない。
……ああ。
やっぱり私は並木くんが好きだなあ。
彼は私の気持ちに気付いてるだろうか。
「線香花火って夏の終わりって感じだよな」
「そうだね。まだ7月だけど」
でも、気付かなくていい。気付いてほしくない。
だってせっかくの思い出を壊したくない。
こんな夢のような時間を、まだ覚ましたくない。
「ね、もう一回繋げよ」
「おう。次はもうちょっと頑張ろうぜ」
「だね」
彼は自分の線香花火に火を点けて、私の花火にキスをする。
二人の花火は繋がって、一つの大きな灯になって。
千切れた涙のように地面に落ちる。
「あーあ」と彼は笑って。
「もう一回」と私も笑った。
――きっと。
私はきっといくつになっても、この瞬間を閃光のように思い出すのだろう。
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