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散り菊
「ママー! 火つけてー!」
「はいはい。ちょっと待ってね」
「はやくー!」
自宅の庭先で、手持ち花火がいっぱいに入った大袋を両手で抱えた琢磨が、まだかまだかと目を輝かせる。幼稚園から帰ってきて、ずっと楽しみにしていたようだ。
私は使い捨てライターで火をつけた蝋燭を倒れないように石で固定した。
「あれ、そういえばパパは?」
「でんわしてたよ! すぐ行くって!」
何だろう、仕事だろうか。
まあ何にせよ彼が「すぐ行く」と言ったのなら、すぐに来てくれるだろう。
「じゃあ先に始めちゃおうか」
「やったー!」
ばりばりと琢磨は乱暴に袋を破って花火を取り出す。そして長い一本を握り締めて、蝋燭の火に近付けた。
「おお、すごい! きれい!」
「綺麗だね~」
「こっちはみどり! すごいすごい!」
琢磨は興奮しながら次々と花火に火をつけた。爆ぜる光を一身に受けて、多色に彩られた息子は笑みを零す。
花火が半分ほど減った頃、背後に人の気配を感じた。
「あ、パパだ!」
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