彼氏は彼氏じゃなかった

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
目が覚めるとそこは病院だった。白い天井に薬品の匂い。清潔な雰囲気が漂う室内に、寝起きの頭がクラクラする。 ………ここは? どうして私、こんなところに……。 ちらりと視線を彷徨わせると、壁に立てかけられた時計が目に入った。十三時三十分を少し回った頃。お昼時だ。 白のカーテンから漏れる日差しが真昼間だということを告げている。 のろのろと体を起こす。腰ほどまである髪をつい手で教えつけてしまい、ツキリとした痛みが走った。 「痛っ……」 思わず声が出る。それと同時に、病室の扉が開いた。ナース服を着たお姉さんが私を見る。 「……!夕凪さん、目が覚めたの!」 夕凪………?誰のことだろう。 寝起きだからかうまく頭が働かない。ナース服のお姉さん………看護師さんは私を見るととても安心したように笑った。そして 「ちょっとまってて、ご家族に連絡するから」 家族………? この時初めて気がついた。家族どこか、私は自分の名前すら覚えてないということ。そのことに気が付き、息もなく呆然とした。 待って、私…………私、自分のこと、何も知らない………?霞んでいた思考のもやが晴れていく。でもそこに残るのは何も無い、ゼロ。何も知らないし、覚えていない。既に退室した看護師さんを思い出し、妙な居心地の悪さを感じた。そのまま視線を下ろす。私が着ているのは白の胡蝶蘭のワンピース。可愛い、と思う。でも覚えていない。どういう経緯でこのワンピースを手に入れたのか、そしてどうして私がこの服を着ているのか。そもそも先程看護師さんが言った『ご家族』というのも分からない。 私は何人家族だったの?兄弟は?親は?友達は? 私はーーー誰なの? 感じたことの無い恐怖が込み上げた。怖い。自分が何者か分からないことがこんなにも恐ろしいことだとは思わなかった。 その時、またしても病室の扉が開いた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!