1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
はじめました
俺の名前は鈴木貴史(すずきたかし)
28歳サラリーマン独身
特に人に自慢出来る趣味も長所もない。
そんなありきたりな俺だが、一つ言いたいことがある。
それは昨日観たヒーローアニメに激しく感動させられたということだ。
はじめて見た作品だったがヒーローが悪を倒す姿や市民を助ける姿、そして敵を許せる懐の広さに一話一話、感動してしまった。
やっぱりヒーローはカッコいい。男なら誰しもが憧れる存在だ。
そして、現在俺はヒーローになるかどうか試されている。
魔王がいるわけでもないこの世界ではあるが、俺は今、コンビニで昼食の弁当を買って温めている最中なのだ。
残り一分
お弁当の値段は380円。奮発して唐揚げ弁当にしようかと思ったのだが、月末で金欠の為なんとか思い止まり、いつもの弁当にしたのだ。
残り45秒
380円の弁当に俺は500円玉を店員に手渡す。
店員は素早く受け取り、流れるようにレジを打ちお釣り120円を俺に返してくる。
残り30秒
いつもの俺ならこのまま何事もなく、お釣りを財布にしまっているだろう。
しかし昨日ヒーローアニメを見た俺は気付いてしまったのだ。
レジカウンターに置かれた小さなクリアボックスを。クリアボックスには募金箱と表記されている。
募金・・つまりは人助けである。ヒーローっぽい。
今まで募金なんてしたことがない俺だが、昨日のヒーローが頭にちらつく。
お釣りを持つ手に力が入る。
残り15秒
このままスルーしてしまっても誰も何も言わないだろう。
募金なんてそもそもスルーする人間の方が圧倒的に多いのだ。そうだ。スルーしよう。
いや、待て。本当にそれでいいのか?
俺の募金でもしかしたら助かる人もいるのではないか?
いや、まさか120円なんかで人助けなんて出来るわけないさ。
お釣り持つ手を握りしめる。
残り5秒
そうだ、これでいいんだ。
俺みたいな人間が募金なんてした所で何も変わらないさ。
お釣りを財布に終おうとした瞬間、俺の頭に昨日のヒーローの言葉がよぎる。
『魔王や怪人を倒せなくても、君に出来る人助けをやれていればきっと誰かは君に感謝している。誰かに感謝されている時点で君はもうヒーローなんだよ。』
お釣りを握り閉めた手の力が緩んでいく。
ピロピロリーン
温められたお弁当を受け取った俺は、コンビニを後にした。
手には既にお釣りは握られていない。
俺の募金で誰かが喜んでくれていると嬉しいな。
こんな気分はじめてだ。これで俺も誰かのヒーローになれたのかな?
俺、今日からヒーロー活動はじめました。
魔王は倒せないけど、明日からも自分に出来る人助けをやっていこう。
最初のコメントを投稿しよう!