はじめました

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はじめました

俺の名前は鈴木貴史(すずきたかし) 28歳サラリーマン独身 特に人に自慢出来る趣味も長所もない。 そんなありきたりな俺だが、一つ言いたいことがある。 それは昨日観たヒーローアニメに激しく感動させられたということだ。 はじめて見た作品だったがヒーローが悪を倒す姿や市民を助ける姿、そして敵を許せる懐の広さに一話一話、感動してしまった。 やっぱりヒーローはカッコいい。男なら誰しもが憧れる存在だ。 そして、現在俺はヒーローになるかどうか試されている。 魔王がいるわけでもないこの世界ではあるが、俺は今、コンビニで昼食の弁当を買って温めている最中なのだ。 残り一分 お弁当の値段は380円。奮発して唐揚げ弁当にしようかと思ったのだが、月末で金欠の為なんとか思い止まり、いつもの弁当にしたのだ。 残り45秒 380円の弁当に俺は500円玉を店員に手渡す。 店員は素早く受け取り、流れるようにレジを打ちお釣り120円を俺に返してくる。 残り30秒 いつもの俺ならこのまま何事もなく、お釣りを財布にしまっているだろう。 しかし昨日ヒーローアニメを見た俺は気付いてしまったのだ。 レジカウンターに置かれた小さなクリアボックスを。クリアボックスには募金箱と表記されている。 募金・・つまりは人助けである。ヒーローっぽい。 今まで募金なんてしたことがない俺だが、昨日のヒーローが頭にちらつく。 お釣りを持つ手に力が入る。 残り15秒 このままスルーしてしまっても誰も何も言わないだろう。 募金なんてそもそもスルーする人間の方が圧倒的に多いのだ。そうだ。スルーしよう。 いや、待て。本当にそれでいいのか? 俺の募金でもしかしたら助かる人もいるのではないか? いや、まさか120円なんかで人助けなんて出来るわけないさ。 お釣り持つ手を握りしめる。 残り5秒 そうだ、これでいいんだ。 俺みたいな人間が募金なんてした所で何も変わらないさ。 お釣りを財布に終おうとした瞬間、俺の頭に昨日のヒーローの言葉がよぎる。 『魔王や怪人を倒せなくても、君に出来る人助けをやれていればきっと誰かは君に感謝している。誰かに感謝されている時点で君はもうヒーローなんだよ。』 お釣りを握り閉めた手の力が緩んでいく。 ピロピロリーン 温められたお弁当を受け取った俺は、コンビニを後にした。 手には既にお釣りは握られていない。 俺の募金で誰かが喜んでくれていると嬉しいな。 こんな気分はじめてだ。これで俺も誰かのヒーローになれたのかな? 俺、今日からヒーロー活動はじめました。 魔王は倒せないけど、明日からも自分に出来る人助けをやっていこう。
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