ひと夏の思い出

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その頃、博六、勝五、四信の少年三人は海斗の家へと訪れていた。 「あら、博六くんたちじゃない。 いつも海斗の相手をしてくれてありがとうね。 どうしたの?」 「あの、海斗はここへ戻ってきていませんか? 一人どこかへ行って、それから戻ってきていないんです」 母親が戻ってきていない旨を伝えると、手分けして海斗を探しに行くことになった。 夏のため外はまだ明るく探しやすいが、どこを探しても見つからない。  博六たちが海斗とよく遊ぶ場所全てを探しても見つからなかった。 「駄目、いない・・・。 お母さん、他に場所はない? 子供が遊びに行きそうなところ!」 海斗の母は海斗の祖母に尋ねる。 この地で最も長く暮らしているのは祖母。 だが流石に、子供の遊び場までは知らないだろうと思っていた。 「とは言ってもねぇ・・・。 ・・・あ、もぉしかしたらぁ」 意外にも祖母には心当たりがあったようだ。 一同は祖母を先頭に海斗探しを再開した。 田んぼの横を歩き、小さな土手を越えて辿り着いたのは小屋だ。  ドアの南京錠が開いているのを見て、期待も膨らんだ。  「お母さん、何ここ?」 「誠さんが建てたのよぉ。 すっかり忘れておったけどぉ、まぁだしっかり建っとったねぇ」 祖母が小屋の中へと入り床で眠っている海斗を発見する。 父親が駆け寄りその身体を抱きかかえた。 「海斗! よかった海斗、無事で・・・」 父が声をかけても海斗は起きない。 ぐっすり眠っているようだった。 「お母さん、よくこの場所が分かったね」 「私の最愛の人のぉ、大切な場所だからねぇ。 まぁさか海斗くんが、一人で見つけるとは思ってもみなかったぁ」 少年三人組も海斗を見つけホッとしたのか、今度は小屋の中を見てはしゃいでいた。 「すげぇ、海斗の写真ばかりだ。 うわ、この海斗ちっせぇー!」 「海斗、小さい頃も可愛いままだねぇ」 「誠・・・。 誠って、海斗のおじいさんの名前だったのか」 少年たちが各々部屋を見渡している中、父は抱いている海斗の頬を触る。 「海斗、よかったな。 誠お義父さんに、こんなにたくさん愛されていて」 この小屋は、新たに海斗に受け継がれ大切な場所となった。 それから60年近く時が経った。 海斗にも孫ができ、仕事の定年を迎えた海斗は懐かしいこの地に越してきていた。 「おじいちゃーん! 起きて! 起きてよぅ!」 孫の波瑠が身体を揺さぶっている。 「ん・・・。 あれ、眠ってしまっていたのか・・・。 波瑠、どうかした?」 「お母さんがスイカを切ってくれたの! 一緒に食べよう!」 「あぁ、そうだな。 一緒に行こうか」 「うん!」 孫の波瑠に起こされた海斗は、ゆっくりとその場に立ち上がった。 一人先に行く波瑠の背をぼんやりと見つめる。 ―――幸せな夢を見たな。 ―――もう60年以上も前のことだというのに、あの時のことはまだ鮮明に思い出せる。 かなりの時間が経ったが、相変わらず広がる景色に大きな変化はない。 近代化も少しずつ進んではいるが、やはり自然多き田舎は自然が多いままだ。 海斗は祖父の家へ来て色々なことを学んだ。  その経験を伝えるため、波瑠が毎年来てくれることを嬉しく思っている。 子供の頃、祖父の作った秘密基地を発見した感動は今でも忘れられないものだ。 ―――スイカを食べた後、久々にあの小屋へ行ってみようかな。 ―――波瑠の写真も新しいものをたくさん撮ったから、飾りに行かないと。 今では海斗と誠の写真だけでなく、海斗と波瑠の写真も増えていた。 波瑠の背中を追いかけるように家族がいる居間へと歩き出す。 ―――・・・あぁ、そうだ。 ―――新しい南京錠も買っておかないと、な。                                                      -END-
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