#23 新しいふたり

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 土曜日──ぜひ一緒に夕飯を、というありがたいお誘いに応じようとしたら、「いや、今日は麻紀の家で食べるから」と巧にあっさり却下されてしまった。 「どうして断ったのよ。せっかく誘っていただいたのに」 「初めて(・・・)の夜だろう。おまえとふたりで過ごしたいんだよ。カレー作ってやるから、そんなに膨れるな」  婚姻届を出したあとにスーパーで食材を買い込み、マンションに着いたころには21時を回っていた。  無事にカレーを食べられたのは随分と遅い時間だったけれど、その懐かしい味は、わたしたちの新しい始まりを祝福してくれているように思えた。 * 「結婚、かあ。麻紀が桐島さんの奥さん……なんだか不思議な感じ。でも、すごく嬉しい」 「明日からは、相模さんじゃなくて桐島さんって呼んだほうがいいですか?」 「どっちでもいいよ。他部署への挨拶回りは次に巧が戻ってきたタイミングでするし」 「結婚式とかは?」 「まだ全然考えてない。中央派遣が終わってからかな」 「そうだ。ちょっと小耳に挟んだんですけど、桐島係長、次は本庁かもしれないですね」  二階堂くんの言葉に、鳥串を頬張る手を止めた。 「夏樹って耳ざといよね。その情報の速さはなんなの?」「なんか知らないけど、たまに他部署の人に話しかけられるんだよな。エレベーターとか廊下で」「それってみんな女性でしょ。夏樹と話したいからネタ提供してるんじゃないの」「あ、いや、その……」──目の前で始まった痴話ゲンカをよそに、たったいま聞いた情報を頭の中で噛み砕く。  もし彼の異動先が本庁だとするなら──わたしが地域振興課に残る、もしくは地方への異動がなければ……。 「まだ先の話なので確度はわからないですけどね。桐島係長自身も本庁を希望してますし、中央から戻ってすぐ地方には行かせないんじゃないですか。本庁としても引っ張りたいでしょうから」 「まだ2年目のぺーぺーのくせに、どうしてそんなに詳しいの。……まあいいわ。結婚したんだから、人事もある程度は考慮してくれるはずだよね。ってことは」 「来年から巧と一緒に暮らせる可能性は、高い」  もちろんそのつもりではあった。だけど、職種の性質上、異動は避けて通れない。  わたしは地域振興課に配属されて4年目になる。どちらにせよ、来年度の異動は覚悟しておかなければならない。
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