#23 新しいふたり

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「時間がないからピッチを上げないと厳しいけど、できるか?ていうか、やってくれ。向こうはもう、おまえじゃないと納得しない」  いったいどんなやり方をしてたんだ?あそこまで信頼されるってよっぽどだろ。森内さんのため息に続いて、前田係長が「決裁は見ていたけど、書類上だけじゃわからないものだな」とわたしの方に向き直る。 「一旦下ろしておいて済まないけど、また頼めるか?他の業務が大変なら、割り振りを……」 「いえ、大丈夫です。やります。やらせてください」  どうしよう。嬉しくて、手の震えが止まらない。心の中がふわっと熱くなって、いまならどんな仕事でも引き受けてしまいそうだ。  何度も電話し、打ち合わせを繰り返した市町村の担当者を思い出す。 こちらの準備不足や知識不足のせいで、最初はうまく話が進まなかった。怒られたことも嫌味を言われたことも、呆れられたこともある。だけど、進めていくうちに少しずつ打ち解けられた感触はあった。  あの担当者がそんなふうに思ってくれていたなんて。いつも手探りでいっぱいいっぱいのわたしを、信頼してくれていたなんて。 「情けない話だけど、俺に変わってからはほとんど進んでいない。だから引継ぎもなしだ。向こうと直接話してくれ」 「はい」 「今週中に打ち合わせを入れたいと言ってた。連絡してもらえるか?」 「わかりました」  立ち上がった瞬間、前田係長に呼び止められた。「頼もしくなったな。旦那を超える勢いで頑張れよ」──思いがけない激励に目が潤みそうになる。だめだめ、ここは職場。嬉し泣きをするなら、家に帰ってからにしよう。……「旦那」に電話でもしながら。 「よく考えてみれば、相模じゃなくて桐島だな。さっき、間違えて呼んで悪かった」 「いえ、どちらでもいいです。徐々に慣れていただければ」 「桐島、なんて呼び捨てにできねえよ。どうしても桐島係長の顔がちらつく」  俺はしばらく相模でいかせてもらうよ。森内さんが苦々しく笑って、居心地悪そうに頭を掻いた。
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