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「ちょっと飲みすぎたな。新しい係長、酒が強すぎる」
「前に二階堂くんも潰されてたよ。あの子、そんなに強くないのに飲みすぎるから」
「連れて帰る平原が大変だな。そういえばあいつら、まだ周りにバレてないのか?」
「どうかな。前田係長あたりは感づいていそうだけど」
時刻はすでに23時を回っている。これから本格的な賑わいを見せるだろうすすきのからの帰り道を、巧と手を繋いでゆっくりと歩く。
3月に入ってから10日以上が経つというのに、頬にぶつかる風はまだまだ冷たい。少し前に、おそらく今期最後の──というか、そうであってほしい──大雪が降ったばかりだ。
巧は昨夜北海道に到着し、今日の昼過ぎに挨拶と派遣報告を兼ねて地域振興課にやって来た。それから挨拶回りをし、各所の職員たちからの質問攻めに遭ったあと、平原と二階堂くんが企画してくれた「結婚祝いの会」に参加したのだった。
いろんな人に驚かれ、祝福されるのはくすぐったさも気恥ずかしさもあるけれど、幸せな気持ちが一番大きい。入籍直後に報告したときとは違い、今回は彼が隣にいてくれたから、なおさら。
「うちの課、誰が一番驚いてたと思う?」
「課長じゃないか、やっぱり。……それか、森内」
「森内さん、やたらテンション高かったよね。いいことでもあったのかな」
「……知らないほうがいいこともあるだろうし、俺はなにも言わない」
なによそれ、と尖らせた唇に柔らかい感触。マンションまではあと少しだ。
こんなふうに歩くの、久しぶりだな。嬉しさが込み上げて、腕を巻きつけて頬を寄せると、「甘えたいなら帰ってからな」と柔らかな声が降ってくる。
「そういえば課長に言われたよ。奥さん、相当頑張ってるぞって」
エントランスをくぐり、並んでエレベーターを待っていると腰に手を回された。そんなことないよ、と顔を上げた瞬間にまた唇を奪われる。
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