#23 新しいふたり

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「例の市町村との共同事業、よく頑張ったな。課長からも概要は聞いたけど、あとで詳細を教えてくれ」 「家で仕事の話するの?せっかく2ヶ月ぶりの夫婦の時間なのに」 「そうだな。昨日は着いたのが遅かったし、あれじゃ全然足りない」  そういう意味じゃないんだけど。ため息をついたわたしの唇を塞ぐ唇から、アルコールの匂い。それが全然嫌じゃないのは、巧の匂いも一緒に纏わりついてくるから。 「ねえ、さっきからキスしすぎ。誰かに見られちゃうよ」 「いいだろう。俺たち、新婚なんだから」 「わたしは帰ってからじゃないと甘えちゃいけないんでしょ?巧ばっかり、ずるい」  ようやく降りてきたエレベーターに乗り込み、すぐにお返しのキスをする。軽く啄ばんでいただけの口づけが舌を絡め合うくらいのものになったとき、エレベーターの扉が開いた。 「中途半端に火がついたから、部屋に入ったらすぐ続きな」  離れ際に低い声でそう囁かれ、耳がカッと熱くなる。 「でも、明日は結婚指輪を」 「2ヶ月ぶりの夫婦の時間だぞ。寝るのが勿体ないくらいだ」 「ちゃんと寝ないと肌荒れするの」 「化粧でなんとかしろ。得意分野だろう」 「ていうか、夫婦の時間ってそういう意味だけじゃないでしょ。ほら、近況報告し合ったりとか」 「いつもの電話とメッセージで十分だ」 「そんなことない。顔を見て話したほうがいいことだって」 「とにかくいまは、話すより身体を重ねるべきだと思わないか」  毎日抱きたいのを我慢してるんだぞ、こっちは。──この人はいったい、真顔でなにを言ってるんだ。自分の夫ながら、思わず頭を抱えてしまう。  さっきまで小難しい単語を並べて輪の中で話していた人とはまるっきり別人みたい。手を繋いだまま言い争っているうちに、すぐ1208号室に到着してしまった。
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