#23 新しいふたり

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「あれだけ飲んでも大丈夫なものだな。俺もまだ若いってことか」 「元気でなにより。もう寝るからね」 「話したいことがあるんじゃないのか」 「そんな体力……残ってるわけ、ないでしょ」  もう、とお布団に潜り込むと、汗ばんだ身体がわたしを背後から包み込んだ。 「首につけると怒られるから、今日は胸元と背中にしておいたぞ」──なぜか得意げだ。今日の巧がいつもより上機嫌なのは気のせいだろうか。 「夜はやっぱり冷えるな。東京は、あと少しで桜が咲くっていうのに」 「見に行きたいけど、時期的に無理だろうから……今年の連休はわたしがそっちに行こうかな」 「でも、麻紀の実家にも顔出したいんだよな。お父さんの調子、どうだ?」 「すっかり元気だよ。また札幌に来たいって言ってた」 「そうか。日程が決まったら教えてくれ。できたら俺も帰ってくる」  オレンジ色のあたたかい間接照明の中、深夜のお喋りはなんだかんだ続く。一週間の疲れに飲み会、そのうえ、散々味わい尽くされて──体力はすでに限界のはずなのに。 「指輪、いいのが見つかるといいな」  いつもの指輪が嵌っている左手の薬指に、彼の手が触れた。もうすぐここに、正真正銘の結婚指輪が嵌る。 「うん。ブランドはいくつかピックアップしたから、一番気になるところから行きたい」 「言うとおりにするよ。俺のより、おまえの綺麗な指に合う指輪を選びたいから」 「もう、キザなこと言って」  くすくす笑うと、彼もつられて笑った。大きな手がわたしの身体をさらさらと撫でる。髪に落ちてくるキスが心地いい。 「結婚指輪、早く嵌めたいな」 「ああ、そうだな」 「指輪を買ったら、本当に結婚したんだなって感じ。あと」 「あと?」 「離れてても、ちゃんと繋がってるって……いまよりもっと実感できそう」  また春が来る。  去年のいまごろは、毎日が幸せで怖かった。笑って過ごしていても、彼が隣からいなくなってしまう恐怖に足が竦んでいた。  明後日には彼は東京に戻ってしまう。また、離れ離れの生活が始まる。怖くないと言ったら嘘になるけれど、いまのわたしたちならきっと、新しい春をうまく迎えられるはずだ。  返事の代わりに腕の力が強まった。麻紀、愛してるよ。愛の言葉は何度繰り返されても飽きない。 だから、わたしも繰り返す。わたしも愛してる──何度だってそう伝えたい。今日も、明日も、これからも、ずっと。
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