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「二階堂くんのお父さんって本庁にいるじゃない。確か経済部のお偉いさん」
「そうだったな。平原も大変だ」
「部が違うだけマシだけど、プレッシャーだよね。まあ、二階堂くんのほうがあれだけ惚れ込んでるし、いまさら親がどうこう言うこともないんだろうけど」
わたしは奇跡的に異動がなく、地域振興課5年目を迎えることとなった。驚くことに、森内さんと並んで一番の古株だ。
「麻紀の異動がなかったのは正直驚いた。順当にいけば平原より早く動くはずなのに」
「そうなんだよね。希望しなかったし、結婚したばかりだからそこを考慮されたのかな、って思ってたんだけど……」
つい昨日のことだ。業務についての報告を終えたあと、課長からある話をされた。現時点では、まだ悩む必要はないのかもしれない、けれど……。
「おまえ、またなにか隠してないか」
彼の鋭い声にどきっとする。さっきから、どうして声だけでわかってしまうんだろう。
「ううん、なんでも……」
「電話の向こうのことは分かるって言っただろう。可愛い奥さんに隠しごとされるなんて、旦那としての自信をなくしそうだ」
声だけでは本気なのか冗談なのか判断がつかない。だけど、むっとしているのは確実だ。
あのね、と口火を切ると、巧が前のめりになったのが透けて見えた気がした。電話の向こうのことは、わたしにだってよくわかるのだ。
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