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「俺は、麻紀の正直な気持ちが聞きたい。俺たちは夫婦だろう?悩んだり困ったりしたときは、一緒に考えて答えを出したい」
「巧……」
「だから、いまのおまえがどう思っているのか教えてくれ。俺も一緒に考えるから」
すごく遠くにいるはずの彼が、すぐそばで見守っていてくれているみたい。頼もしくて心強くて、なにも遠慮せず寄りかかっていいんだ、と身体の力が抜けていく。
「……わたしも、すごくいいなって思う。家族が増えるなんて、想像するだけでわくわくする。でも、いまは仕事が楽しくて、もっと頑張りたいって気持ちもある」
「わかってる。そうだよな」
「それに、いまの一番の目標……楽しみは、巧とふたりで暮らすことなの」
当たり前のような「新婚生活」を、わたしたちはまだスタートできていない。同じ部屋に住んで、一緒にご飯を食べて、同じベッドで寝て起きて、仕事が終われば同じ部屋に帰ってきて──早くそんな日々を送りたい。
「だけど、いまの段階じゃどこの市役所になるかわからない。それも不安で……」
「そこは心配しなくていいんじゃないか。十中八九の確率で管内だろうし、札幌から通えばいい」
「そう……なの?」
「だいたいはそうだと思うぞ。課長に確認してみろよ」
ていうか、そうでないと勧めたりしない。離れ離れはもう勘弁だからな。彼のため息が耳を通り過ぎていく。
「俺だって、一日でも早くおまえと暮らしたい。毎日一緒にいられるって、どれだけ幸せなんだろうな」
「うん。……新婚生活、待ち遠しいよね」
「それに、俺が帰ってしばらくの間はふたりきりで過ごすのもいい。いままでできなかったこと、我慢してたこと、たくさんあるだろう?」
「数え切れないくらい」
「これからずっと一緒に生きていくんだ、急ぐことはない。ゆっくり、ふたりで話し合ってやっていこう」
うん、と頷いた拍子に涙が零れる。「早く帰ってきて」──思わず口をついて出たひと言に、「ああ」と感情を滲ませた声が返ってきた。
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