#24 未来は未定

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「麻紀、来てくれてありがとう」 「今日の平原、世界で一番綺麗だよ。本当におめでとう」  光に反射して煌めく真っ白な肌、瞼の上の繊細なきらきら、かたちのいい唇に引かれたコーラルピンクの口紅。 近くで見るとさらに綺麗だ。ぎゅっと抱きつきたい衝動を抑え、浮かんできた涙を指で拭う。 「桐島係長、わざわざすみません。ありがとうございます」 「ふたりともおめでとう。二階堂、さっきから奥さんに見惚れすぎだ」 「もう、琴実があまりにも綺麗で……試着とかで散々見たはずなんですけどね」  いつもの無表情はどこにいってしまったのか、鼻の下どころか顔全体が緩みっぱなしだ。  二階堂くんの熱い視線に、照れたような視線をぶつける平原。このふたりの周りだけが異常に温度が高いのは、気のせいではないだろう。 「可愛い後輩夫婦と写真を撮ろうと思ってな。いま、大丈夫か?」 「もちろんです。あそこに僕の友達がいるので……凛太郎(りんたろう)、ちょっと写真撮って」  二階堂くんが声を掛けたのは、彼に負けず劣らずのイケメンくんだった。双子……じゃないよね?ふたりの顔を見比べていると、「あの子、夏樹の親友なの。そっくりだよね」と平原が耳打ちしてきた。  よく見ると、先ほどの女の子ふたりも同じテーブルのようだ。「凛太郎くん」の後ろをちょこちょこと着いてきて、二階堂くんと4人でなにやら楽しそうに話している。 「撮りますよ。……あ、もうちょっと寄ってもらっていいすか」 世界一幸せなふたりの後ろに写る、同じくらい幸せなわたしたち。4人の笑顔がスマホの画面に収まる。 「次は麻紀たちの結婚式、楽しみにしてるからね」「僕、スピーチでもなんでもやりますから言ってください」──頷く前に、肩に手を回されて抱き寄せられる。 「そうだな、楽しみにしててくれ。これでもかってくらい見せつけるから」 「もう、やめてよ。恥ずかしすぎ」  その手を勢いよく払うと、ふたりが「いまから見せつけないでくださいよ」と笑った。 彼が帰ってくるまで半年を切った。3月の、別れ際の空港で永遠とも思えた時間は、時には憎らしくなるくらいゆっくりと、時には激流のように過ぎていった。 未来は未定だ。だけど、あなたと一緒にいる未来なら、それでいい。巧と一緒に生きていけるなら、それでいい。
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